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zoom RSS 故 宇江佐真理著『髪結い伊三次・・・・・・

<<   作成日時 : 2016/04/17 09:59   >>

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宇江佐真理さんが2015年11月7日に亡くなって、ウンヶ月・・・・・
やさしい小説を書く作家がまた一人亡くなってしまった。


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『髪結伊三次捕り物余話』シリーズがもう読めないかと思うと残念であります。

実にやさしいよい小説を書かれたのでありますよ。

たとえば、『明日のことは知らず』の中の一篇『やぶ柑子』。

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裏長屋に引っ越してきた浪人の奥方は生活を支えるために紙風船作りを内職にしている。

旦那も内職をしようとしたが、武士がそのようなことをしてはならないと頑として許さないで、毎日のように再就職のために以前浪人の父親が助けたことのある男のもとに向かわせている。

しかし、男は、昔の恩など忘れて浪人を邪険に扱うばかりか付きまとうとタダではおかんと脅かしたあげく逃げ回っている。
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これは宇江佐真理さんが、あとがきでもかかれているが、昭和12年に封切りになった時代劇映画『人情紙風船』のパクリとも言われてもしかたないと書かれているぐらい設定が似ている。

ではなぜ、書かれたかというと映画『人情紙風船』は、浪人の奥さんが夫が悪事に加担したと誤解をして夫を殺して自分も自害をしてしまうという話である。

救いのない話である。

当時、第二次大戦前で、日本が中国大陸に進出していた時代であるから、戦争の暗い影が反映された悲劇的な映画が多かった。


それでは、あまりにかわいそうではないかと、宇江佐真理さんは手直しをしてこの短編を書かれたのである。


浪人は自殺をするのだが、伊三次の女房のお文と女中のおふさなど同じ長屋に住んでいる連中に救われ、取り潰された藩が再興されることになり、浪人も再仕官できることになるという話である。


「甘い!」と言われる方もおられるかもしれないが、宇江佐真理さんも書かれているが、現実の世界は苦渋に満ちている。せめて物語世界だけでも読者に夢を見させてあげたいと思ってこの短編を書かれたそうである。


夢のような話ではあるが実によいホッとさせる話であります。


ヤブコウジとは、十両とも呼ばれ、藪の中で自生して冬に赤い実をつけるので万両、千両とも並んで、縁起の良い植物として栽培されているとか。
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『髪結い伊三次』シリーズではないが『あやめ横丁の人々』という本でも、そのやさしがにじみ出ている。
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旗本の三男坊が人を殺してあやめ横丁に匿まわれることになる。

映画『卒業』の時のように結婚式の最中に花嫁の男に花嫁をさらわれ、頭にきて相手の男を殺してしまう。

それを見た花嫁は首を吊って死んでしまう。

首を吊った花嫁側の家が逆恨みをして主人公の命を狙って何度も襲って来るので、ついにあやめ横丁に逃げることになったのである。
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ところが、あやめ横丁は妙なのである。

暗いし人を避ける風がある。

アヤメというと花の写真が浮かぶ人がほとんどだと思いますが・・・・
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そろそろ、水郷佐原植物園でも咲き出すでしょうね。

幕張サービスエリアでもこんなことをやっておりました。
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この小説のあやめは花のアヤメではなく、『殺める』のあやめなのであります。

つまりあやめ横丁の人々、ほとんど全員が理由のいかんにかかわらず殺人や殺人未遂を犯していたのです。

主人公である旗本のお坊ちゃんである紀藤慎之助も、徐々に気が付いてくる。

住民たちと目線が合うとぞくりとするような殺気を感じたりするし、自分から自分が人を殺したことを告白する者も出てくる。

自分が世話になっている家の家族、母親のような女将さえも人を殺めていた。

アヤメ横丁全体が牢屋のようなものである。

アヤメ横丁は、お上が種々の事情を考慮して作り出した横丁だった。

実際、正面にある木戸以外からは出入りが出来ない構造になっている。

紀藤慎之助は、その横丁で子供たちに手習いや礼儀作法を教える寺子屋をやることになる。

子供たちが自分たちと同じような悲劇を起こさないようにという大人たちの配慮である。

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やがて、紀藤慎之助はこのアヤメ横丁から出ていく時が来る。

その別れの時、紀藤慎之助は子供たちに向かって最後の授業をする。


『・・・・・あやめ横丁は花のあやめではなく、人をあやめる意味のアヤメ横丁であります。しかしながら、みなさんは、まだ人をあやめておりませぬ。一生、人をあやめてはいけません。先生もこれからは決して人をあやめたりはしません。お約束いたします。心が弱いから人はつい、過ちを犯してしまうのです。皆さんはこれから大人になるまで、心を大いに鍛えてください。辛いことがあってもじっと我慢するように。我慢は人を強くします。・・・・』


まあ、お説教臭いと言えば臭い言葉ですがね。

我慢することは大切ですよ。

宇江佐真理さんは、時代小説というよりファンタジーとしておとぎ話と書かれたそうです。

あまりに、簡単に人が殺される現代社会だからだそうです。



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デビュー作からのフアンであります。


髪結いである伊三次の夢は自分の店を持つことであるが、シリーズの後になると店を持つことをあきらめてきている。

『名もなき日々』の中の一篇『以津真天(いつまでん)』でも江戸を騒がしている以津真天という怪しげな鳥が鳴いたとき・・・鳴き声が『いつまで』と聞こえた時・・・・いつまで髪結いを続けるつもりだと言われた気がして。


「へい。手前は髪結いしかできねェ男で、他には取り柄はござんせん。足腰が達者な内は髪結いの仕事を続けるつもりですよ。はばかりさまでござんす」

と答えている。

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伊三次は、回り髪結を生涯続けていくようである。

江戸の町を歩いて、お得意さんの髷を結い、次のお得意さんの家に向かう日々・・・・


それが江戸時代だけでなく現代の日本の一般庶民の生活でありましょうね。


宇江佐真理さんの小説は平々凡々と生活していくことの大切さ、貴重さを教えてくれる小説であります。


ぜひ御一読を。



                                   







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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
宇江佐さん残念でしたね…
きっと心優しい方だったのでしょう。
母も時代小説が好きでよく読みますので
ご紹介の小説も早速予約しました。

あまりに短絡的に人の命が失われる世の中に
なってしまって憂えますよね。
熊本の大地震などをみていると
日々の平凡な暮らしが如何に尊いか思い知らされます。



ひまわり
2016/04/17 12:06
うちのパパも 悲劇的なお話はあんまり好きじゃないようで 本や映画とかはハッピーエンドの方がいいみたいです
エンターテインメントとして考えると 幸せな気分にならないから・・・と言っていました
私は 実際の世界では そういうことばかりではないから ハッピーエンドじゃなくてもいいかな?なんて思うんですけどね
ねこのひげさん たくさん 本を読んでいらっしゃるんですね
そうそう ずっと前に紹介されてた しゃばけシリーズを読んでいますよ〜
みるしっぽ
2016/04/17 21:34
 ひまわりさんへ
残念です。乳がんで亡くなる方は減っていると聞いていたんですがね。

簡単に人の命が消えすぎますね。

熊本の地震は驚きました。震度6以上の地震が何回も起きるなんて誰も思わないですからね。
日本全国、同じような地震が来てもおかしくないと肝に銘じておかないといけないでしょう。

ねこのひげ
2016/04/18 01:46
 みるしっぽさんへ
現実社会であまりに悲惨なことが多いですからね。パパさんも小説の中にまで悲劇を求めたいとは思われないのでしょう。

しゃばけシリーズ。読まれてますか。よいシリーズでしょ。
ねこのひげ
2016/04/18 01:55
時代小説は優しい話が多いですよね
昔の人はそうであったのかなあ、なんて思います
摩利紫天@analog-ya
2016/04/18 07:10
 摩利柴天@analog-vaさんへ
現実の世界でも、そうであってほしいという作者の願いでもあるでしょうね。
読んでいる側もそうですが。
救いのない話は辛いですからね。
ねこのひげ
2016/04/20 01:48
素敵な小説ですね。ねこのひげさんの書評を読むと、読みたい〜という気持ちがモクモクと湧いてきます。
我慢といえば、US社会ももうちょっと我慢を知っていればと思うような事件が時々起きますね。銃砲所持がOKなので物騒です。
櫻弁当
2016/04/28 07:53
 櫻弁当さんへ
はい、素敵な小説です。
ぜひ、読んでみてください。

拳銃がそばにあるのがよくないという意見もありますが・・・・
レストランで食事中に隣の席の白人の腰に拳銃がぶら下がっているのを見て、さすがUSだと驚いたことがあります。
ねこのひげもアメリカに行った時はよく撃ちに行っておりました。
でも、生きている物を撃ったことはありません。
我慢することは大切ですよ。自分の一生を失う事になるかもしれませんからね。
ねこのひげ
2016/04/29 03:12

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